いつも TypeScript 書いてるんですよ、そしたら function の前にコメント書くじゃないですか、/** ... */
で書いてるけど正直のところ中身は勘で書いている。@returns
や @deprecated
とかよく見るし、雰囲気で使っているけど、本来なんのタグが使えるかあんまり誰も分かってない。補完のときに表示されてラッキーぐらいの感覚。でも謎のタグを使ってるの見たら気になるし、今 TypeDoc でドキュメント生成していなくても、標準的なフォーマットがあるなら従っておきたいじゃん。そして TSDoc でインターネットを検索しても、こう書けばいいみたいな記事がすぐ見つからねぇ〜〜
まだ標準は無い
リポジトリ見に行く
microsoft/tsdoc: A doc comment standard for the TypeScript language
ふむふむ、現行の多くのツールは大まかに JSDoc ベースのコメントをサポートしてるけど、JSDoc に厳密な文法が定義されてないので実装から挙動を推測しておりツールのパーサ間に非互換性がある、TypeScript では JSDoc に型を書くことに興味ない、TSDoc の仕様を作ろう、という感じ。
What's next:
Write up an initial draft of the TSDoc spec document, which outlines the proposed standard
はい...
現在、標準の仕様は無くて最初のドラフトを作ってる段階。なのでこう書けみたいなドキュメントがないんだな。
とはいえ TSDoc が TypeScirpt のドキュメンテーションの標準になる確度は高いでしょう、何年も前からそういう雰囲気ではあるが。draft 前の実装はあるし、コア部分は大きく変わらなそう。TSDoc は JSDoc 表記に可能な限り近づけると言ってるし、JSDoc にないタグもあるけど JSDoc としてもパースできそう。なので現行の TSDoc のつもりでコメントを書いていっても悪くなることはないんじゃないか。
タグの種類と例
@
から始まるこういうのがタグ → @deprecated
タグには Inline
, Block
, Modifier
の3種類ある。
Inline
{ }
に囲まれて使われるインラインのタグ
{@link https://pokutuna.com}
のように使う
@link
, @inheritDoc
, @label
の3つ
Block
セクションの開始を表すタグ、後ろにドキュメントが続く
@deprecated
, @example
, @remarks
, @param
, @throws
, @returns
など
Modifier
ドキュメント対象を修飾するタグ、セクションを開始しない
Modifier に続くテキストは直前の Block の内容と見なされる
@override
, @internal
, @experimental
など
TypeScirpt では型で定義される @readonly
や @public
なども一応? Modifier にある
エスケープ
タグのエスケープは @{}
それぞれの前でバックスラッシュ
リンクテキストの例: \{\@link https://pokutuna.com | ぽくつなドットコム \}
みたいな
エスケープではないけど Markdown が使えるので ``
によって code span にしてもよい。
basicSample.ts を引用して注釈をつけるとこういう感じ
/** * Returns the average of two numbers. * ↑ Summary Section、見出しや要約のつもりで簡潔に書く * * @remarks * This method is part of the {@link core-library#Statistics | Statistics subsystem}. * ↑ 必要なら詳細を `@remarks` ブロックに書く * * @param x - The first input number * @param y - The second input number * @returns The arithmetic mean of `x` and `y` * ↑ これらも Block タグ * * @beta * ↑ ドキュメント対象を修飾する Modifier タグ */ function getAverage(x: number, y: number): number { return (x + y) / 2.0; }
その他のサンプルは TSDoc Playground で見られる
タグ一覧
現在 TSDoc で実装されているタグはこちら
ぞれぞれのタグの用途は実装 StandardTags.ts のコメントを見るとよい。
または TSDoc をサポートするツールの API Extractor のドキュメントが現状一番整っているように思うので参照するとよさそう API Extractor: Doc comment syntax。API Extractor は Microsoft のメンテする rushstack の一部で、TSDoc 開発者が作っている。
Tag | Kind | Standardization | AllowMultiple |
---|---|---|---|
@alpha | Modifier | Discretionary | false |
@beta | Modifier | Discretionary | false |
@deprecated | Block | Core | false |
@defaultValue | Block | Extended | false |
@eventProperty | Modifier | Extended | false |
@example | Block | Extended | true |
@experimental | Modifier | Discretionary | false |
@inheritDoc | Inline | Extended | false |
@internal | Modifier | Discretionary | false |
@label | Inline | Core | false |
@link | Inline | Core | true |
@override | Modifier | Extended | false |
@packageDocumentation | Modifier | Core | false |
@param | Block | Core | true |
@privateRemarks | Block | Core | false |
@public | Modifier | Discretionary | false |
@readonly | Modifier | Extended | false |
@remarks | Block | Core | false |
@returns | Block | Core | false |
@sealed | Modifier | Extended | false |
@see | Block | Extended | false |
@throws | Block | Extended | true |
@typeParam | Block | Core | true |
@virtual | Modifier | Extended | false |
Standardization
は標準化のカテゴリで、Core
は TSDoc に対応するツールが必須でサポートすべきもの、Extended
はオプションだけど対応するなら構文とセマンティクスは TSDoc 仕様に従うべきもの、Discretionary
もオプションだがセマンティクスは実装固有のもの、None は標準外のもの(カスタムタグなどで定義したらこれになる?)
AllowMultiple
は1つのコメントブロック(/** ... */
)で複数使えるなら true
。Modifier はその性質上 false
ですね。
感想
@deprecated
が Block タグなのは、今はこれ使えとか、どのバージョンから非推奨かなどを書く想定ってことやね。
JSDoc ではおもむろ長文書きがちだが、@remarks
でセクション分けてほしそう、ユーザに配布するドキュメントなどに出力したくないものは @privateRemarks
を使う。
@packageDocumentation
は直後の実装を修飾するわけでなくて、package に対する説明であることを表明するやつ。API Extractor: @packageDocumentation
@see
は1つしか書けないのはやや意外、一方 @example
は複数書けるので、例ごとにセクションを分けよう。
@label
は {@label hoge}
で付けたラベルを {@link hogeNamespace.(:hoge)}
のように参照するものらしい、やや難しい印象だけど Core である。@link
は URL だけでなくコード上の識別子でも参照できるため、記法を決めるのにいろいろ議論がある。 RFC: Syntax for "declaration references" (hyperlinks) · Issue #9 · microsoft/tsdoc
TSDoc のコードに手を入れず拡張する仕組みとして @microsoft/tsdoc-config がある。JSON を書いたらカスタムタグとして追加できる。また eslint-plugin-tsdoc で TSDoc コメントの lint ができる、どちらも TSDoc リポジトリ内にある。
VS Code によるサポート
実際のところ VSCode で TypeScirpt を書く時は、まだ TSDoc は標準ではないし、JSDoc Support の機能によってもろもろ表示されていそう。
JSDoc support / TypeScript Programming with Visual Studio Code
なので Block や Modifier の仕様は関係なくて @
で区切られた文字列をタグとみなして表示が整えられている。TSDoc のように Markdown も使えるし、Code Block は Syntax Highlight もされる。
実際のところ多くのユーザは JSDoc であまり困っていなくて、JSDoc をパースしてなんかやりたい人やツールが困ってるって感じなんだろうな。なら今書こうとしてるのは何なのかという気持ちになるけど、将来俺は昔から TSDoc でやってきたという顔をするために TSDoc で書きます。